【ジョシュアエリス】マネージングディレクターのOliver Platts氏へインタビュー

 

 

先日、 Joshua EllisのマネージメントディレクターであるOliver Platts氏(オリバー・プラッツ)が来日し、グリニッジからインタビューをさせていただきました。

250年以上の歴史を持つJoshua Ellisならではの職人たちへのこだわりや、会社の歴史と今後という内容になっておりますので、是非ご覧ください。

 

  • ご自身の自己紹介をしていただけますか。

- Joshua Ellisマネージングディレクターのオリバー・プラッツです。ヨークシャー州にいます。前職はロンドンにある、有名なマフラーの会社 に6年間在籍しており、セールスマネージャーをしておりました。退職後にヨークシャーに戻り現在7年目に至ります。。



  • 1本のストールを作るのに、どれくらいの期間がかかりますか。

まず初めに中国やモンゴル周辺のヒマラヤ地帯から原毛を調達します。その後、イギリスで糸の染色を行います。そこからストール生地を織っていく流れになります。ここまで約3-4ヶ月かかります。我々の生産の約7割はいわゆる下請け生産であり、パリやニューヨーク、ロンドンなどのラグジュアリーブランドへ生地を卸しています。通常3〜4ヶ月程度の生産納期ですが、こうしたブランドとの仕事を多く持っているので、現実には6ヶ月以上はかかっています。

 

  • ストール1本を作るにあたって、どのくらいの人が携わっていますか。

社員は全員で70名ほどであまり多くはありません。他の会社と比較すると非常に少ない人数です。ストールを作るのに約23の工程があり、そのメインは仕上げの工程になります。各ストールに30-40人が関わっています。



  • 職人のこだわりはなんですか。

工場には勤続50年になろうとしている従業員が2、3人います。40年以上在籍している人も多くいます。「仕上げ」は我々のメインの工程ですが、単純ではありません。この工程は科学ではなく、芸術です。多くの場合は慎重に感覚を研ぎ澄ませていきます。これは経験からしか得られない技術です。

したがって、私たちは毎年新しい技術者を雇用しています。というのも、従業員の高齢化が進み、技術が失われていくことを防ぐため、毎年多くの若者を受け入れています。

 

  • 職人のコアやパッションはどのあたりになりますでしょうか。

長続きする良いチームを築き、素晴らしい製品を作るという同じ目標を持つことから我々の情熱は生まれてきます。今も昔も本国の職人たちは、最高の商品を作ることが彼らの職務です。かつて、彼らが作った製品がここ日本や、ニューヨーク、パリというような大都市にある、世界でも有数の店舗で販売されているという実感が薄いのが実情でした。私は彼らに理解してもらおうと、今回のような出張に来た際に、撮った写真を帰国した際に共有するようにして、自分たちのお客様や仕事のコアを再認識してもらうようにしています。コアを貫いて製品を作ることは非常に重要だと感じています。


  • 会社を長く続けるコツや秘訣はありますか。

1767年、イギリスのヨークシャー(リーズとハダーズフィールドの間)にて、Joshua Ellisは創設されました。その頃のイギリスは産業革命が起こり、リーズはウール産業で栄えていました。ハダーズフィールドは梳毛のウール生地で栄えていました。その真ん中、つまり私たちがいるヨークシャーあたりは、いわゆる粗悪品地帯として知られていました。この地域では、世界中のあらゆるリサイクル原料を集め、それを基本的に非常に安価な製品にして、軍服などを基本的に生産していました。

しかし、このようなビジネスは英国では長く続きませんでした。そのため、1800年代には、より高級生地を生産する事業へ移行していくようになりました。例えば、南米産のカシミアやオーストラリアやニュージーランド産の高級メリノウールを扱うようになったのです。そして、1980年代から90年代にかけて、イングランド北部のテキスタイル・ビジネスの多くが廃業に追い込まれる中、我々のビジネスはさらに進化を遂げることができました。多くのテキスタイルメーカーが、中国やヨーロッパの他の地域に生産拠点を持つようになりました。そしてまた、我々もより高品質なモノ作りをつづけるという進化を求められました。250年もの間、ビジネスを続けることができた秘訣は、非常に現実的で、変化やビジネスの進化に対してオープンであったことだと思います。
近年だと数年前にコロナウイルスが流行した際は、大手ブランド向けのアクセサリー生産により重点を置きました。生地ビジネスが落ち込む一方で、ソフトアクセサリーやブランケットなどの家庭用製品を生産することが我々のビジネスの中でより大部分を占めるようになりました。



  • 先ほどあなたからもお話があった通り、創業時のイギリスは産業革命の渦中だったと思います。その中でどのように市場の変化に対応してきたのでしょうか。

新商品を生み出したり、ストールの他にもアクセサリーや家庭用製品にも方向性を広げていったが、それとは別に250年の間で様々な変化がありました。例えば、非常に品質の悪い繊維を扱っていた時代から、世界最高の繊維を生産するところまで進化してきたように、この250年間で大きく変化を遂げてきました。

 

今後、私たちが進むべき道の1つに、現在のサプライチェーンと私たちが扱う繊維・素材が最も持続可能なものであると示していくことだと考えています。ですから、カシミアを扱い続けるのであれば、正しい認証を受けた、最大限持続可能な方法で調達された素材を使うことが不可欠です。

その一方で私たちは、未来のカシミヤになりうる他の繊維にも注目しています。

例えば、キノコ繊維や植物繊維のようなものは、科学的進歩があり、非常に興味深いです。

こうした新しい繊維についても検討していかなければなりません。

 

もう1つ例を挙げるとするならば、ビジネスが発展するにつれて、私たちは多くの市場に輸出するようになりました。その市場のニーズに応じた商品を提供してきました。特に日本とは100年以上にわたって、何らかの形で生地の取引をしてきました。しかし、日本はファッション性が高い国ですし、現状に満足することなく、デザインや配色、重量を工夫するなどしてニーズに答えてきました。中東では、その気候から重衣料用の生地を売ることは難しいので、別のその気候にあった製品を提供しました。これが我々が時代に対応してきた例です。




  • さらに歴史あるブランドを継続していくために記事を読みました。

4年後、260周年を迎えます。マーケティングの観点からも大きなチャンスだと思います。これほど長い間、生地製造に没頭してきたビジネスはそうそうない。だから、私たちは特別なプロジェクトのために協力し合えるパートナーを探すことになるでしょうし、パーティーのようなものであれ、その歴史を祝ういい機会だと思う。それが次の大きな仕事になるでしょう。300周年だって楽しみにしていますよ。今からあと40年も経てば、私はおそらく長かったビジネスマン人生を引退して、どこかのビーチに座って休暇を楽しんでいるでしょう(笑)

 

私たちが正しい仕事をしていて、44年後の300周年にもビジネスが存在していることを信じています。

 

  • 業界の動向と今後に向けて

最初に言っておきたいのは、市場は常に大きく変化しているということです。

私たちの生活様式が変化しても、実際の製造面に関しては大きな影響はないでしょう。なぜなら、人々は製造の芸術と技術を持っているからです。だから、その面では大きな脅威にはならないといます。ただ、消費者の服装は変化していくでしょう。その変化には細心の注意を払わなければなりません。

しかし、私たちは、AIやその他の脅威の可能性にさらされている、多くの他業界ほどには脅威にさらされていない業界だと思う。

私たちは今やっていることを継続するだけです。最高の品質とサービスを追求するという原則に忠実であれば、きっと大丈夫だと確信しています。

 

  • 会社のビジョンはありますか。

私たちのビジネスは、何よりもまず、私たちが暮らすコミュニティを支え続けることだと思います。常に事業拡大のために成長したいと願っています。したがって、私たちのビジョンは、品質を向上させ続け、高級衣料を扱う顧客を拡大し、より多くのブランドと協力して供給できるようにすることです。
また、サスティナビリティに特化した「トレーサブルな方法」でそれを行うことです。
例えば、サステイナブル・ファイバー・アライアンス(SFA - 持続可能な繊維連盟)は当社の繊維と密接に関係しています。私たちはこれからも成長し続け、ビジネスを進化させていくことができると思います。

 

  • 創業時と変わらないものを教えていただけますか。

「ベストを尽くしているブランド、そして今も存在しているブランド」と我々は自認しており、自分自身に忠実であり続けているものだと思います。テキスタイルであれ、どんな業界であれ、最も強いブランドは、非常に明確な目的意識を持っているものだとよく思います。例えば、エルメス。馬具を扱うビジネスから始まりましたが、レザーを作ることに長けていました。ですから、レザーは常にそのブランドのDNAの一部なのです。

ラルフ・ローレンの場合は、ローレン氏自身がコレクションに使用するすべての生地を厳選しています。彼は、クラシックなブリティッシュ・ルックとアメリカン・ルックを融合させたデザインとスタイリングで、大きな成功を収めています。彼らのコレクションを見ると、今でもそれが見て取れます。ブランドのアイデンティティとそのDNAは非常に重要です。

そして、自分たちの信念に忠実であり続けるビジネスこそが、今後も繁栄し続けると考えます。もちろん、適応していかなければならないし、適切な時期にウェブサイトを立ち上げなければなりません。そして、適切なタイミングでメタバースに参入しなければならない。これらはすべて、私たちが成長し繁栄し続けたいのであれば、いつかはやらなければならないことになるでしょう。例えば、バーバリーを見てみると、彼らのビジネスのかなりの部分は、伝統的なトレンチコートやスカーフを使ったビジネスです。彼らは期間限定の商品を作り新たな色や柄を使用するかもしれません。

しかし、その基本的な信念であり、核となる製品、核となるのはトレンチコートルックであり、絶対に不可欠なものです。




・どんな会社であれ、所属してるコミュニティを尊重しコミュニケーションを深めていかなければならないということを改めて痛感しました。250年以上の会社をまとめているトップから聞くとより重みを感じます。

そうですね。ただ、私たちは、皆さんに我々のマーケティング・チームも紹介したいと思います。私たちがもっといい仕事ができると思っている分野のひとつは、皆さんともっと協力することです。マーケティングはとても簡単な仕事です。

しかし、人々に伝えるべき素晴らしいストーリーがあれば、それは簡単な仕事に過ぎません。あなたの仕事は、人々に物語を作ることはできないと伝えることです。記事を提供したり、顧客や雑誌などに伝えるための情報を提供したりするのは、英国の私たち次第になります。申し上げたように、私たちはとても幸運な状況にあり、伝えるべき良い物語を持っています。しかし、我々イギリス人と日本人は時より似た文化や習性を持っていると感じます。私たちイギリス人は自分たちのストーリーを特にうまく語ろうとせず、自分たちがとてもいい仕事をしていることを知っていることにただ満足してしまいがちです。

 

しかし、日本において、製品がどこから来て、どのように作られ、どのようなストーリーがあるのか、そのビジネスやブランドの背景を消費者が理解したいという欲求が非常に強い市場であることは非常に興味深いです。日本の消費者は、日頃から我々のことに関心を持ってくださっています。私たちはこれからも喜んで、より多くの情報を提供し、できる限りのサポートをしていきたいと考えています。

 

・非常に光栄な機会をありがとうございました。